02 : Worldview

ようこそ、『東京24区』へ

こちらは、とある都内のBARでございます。
本日もお客さまのご希望に合わせたカクテルをご提供いたします。
ほんの少し甘酸っぱく、切ないお味でも。ほろ苦く、それでいて心震えるお味でも。
すべては、ご来店いただきましたお客さまのお心のままに。

そして、ご来店いただきましたお客さまは、みなさま当店の提供いたしますカクテルの由来に、深く興味をお持ちくださいますようで。
どうぞ、わたくしの物語でよろしければ、お時間の許す限り耳を傾けてくださいませ。

ただし。

誠に恐縮ですが、当店は雨の降る夜のみの営業でございますので、予めご了承ください。


『東京24区』とは?

平成という時代が終わりを告げてから、さらに五十数年後の東京都。
人口増加に比例して、犯罪の発生率もうなぎ登り。
本来であれば東京都内百二カ所に配置された所轄署内で各々事件解決に努めるべきことが、事件の性質や難解さに所轄では手に余ることが増え、迷宮入りしてしまうこともしばしばだった。 東京の所轄署をまとめ上げる、本部である警視庁でもそれをフォローしきれず、東京都内だけを見ても検挙率は犯罪発生率上昇と反比例し、低下と言う恥ずべき記録を更新し続けていた。

さて、どうするものかと上層部は頭を抱え、その中でひとつの妙案を生み出した。
特殊事件や難事件など、所轄署では手に負えない事件のみを担当する部署を新設し、そこへ精鋭を集めることによって下がり続ける検挙率を食い止め、いや、食い止めるだけでなく更に上昇させようと考えたのだ。

名称を、『警視庁刑事部特殊事件特別捜査班』。警視庁内のとある一部屋にその捜査班は存在した。

捜査班へ配属される刑事は、精鋭中の精鋭と呼ばれていた。
なにしろ、高度な科学知識・捜査技術に精通し、複雑に絡み合う難事件は当然のこと、大規模な業務上過失事件やハイジャック、爆破事件などの特殊事件などにも対処するのだ。警視庁の管轄下にありながらも捜査方法に縛られず、現在まで当該捜査班のみに焦点を当ててみると検挙率百パーセントを誇る彼らを、羨望と揶揄の意味を込めて正式名称ではなく……

『東京二十四区』と呼ばれていることは、警察関係者の中では暗黙の了解だった。


登場人物

秋葉恭平警部補

二十四区のベテラン刑事。相棒など必要ないと、かたくなにコンビを組まずに捜査を続けてきた一匹狼。
そして、過去のとある出来事から、拳銃を持たないと決めている。
班長の計らいで加賀美警部補を相棒としてあてがわれ不満を抱くも、彼の実力を認めざるを得ない事件に遭遇する。また、加賀美の秋葉に対する態度や仕草から、秋葉の固く閉ざした心が徐々に解けて行く。

加賀美智秋警部補

二十代でありながら、東京大学法学部出身のエリート警部補。いわゆる、キャリア組に属している。
研修を兼ねて二年間アメリカに派遣され、帰国と共に二十四区へ配属された。
ベテラン刑事である秋葉警部補とコンビを嫌々組まされ、ふたりは何度も衝突を繰り返した。しかし、凄惨な連続殺人事件を彼らが担当したことにより互いが互いを理解するように気持が変化した。
そして、少しずつ相棒である彼に相棒以上の興味を抱いて行く。

久森康之巡査部長

五年もの間、二十四区へ転属願いを出し続け、念願叶って昨年の春に配属された。
大和巡査部長とコンビを組む。二十四区では数週間、久森の方が大和より先輩。
二十四区へ配属されることがステイタスだと思い込んでいる。キャリア組である加賀美警部補を目の敵にしている。

大和一哉巡査部長

大柄な身体に似合わない屈託のない笑顔が特徴。菓子パン好き。
昨年春、ほぼ同時期に配属された、久森巡査部長とコンビを組んでいる。
大きな身体の割に小心者で、秋葉警部補に『バンビ』と不名誉な渾名をつけられた。

長谷川修警部

二十四区設立以来の班長。
昇進より現場だと、警部止まりのいまに特に不満はない。
彫りの深い柔和な顔だが、取り調べが始まると鬼に変化すると恐れられている。

神謙司警部補

アメリカで特殊メイクを修業した、一風変わった刑事。
姉崎警部とコンビを組んでいる。

姉崎雅己警部

神警部補とコンビを組んでいる。

小林桜子

事務担当で二十四区へ配属された。メモ魔。
議事録作成が得意。

二宮高貴巡査部長

捜査一課配属の刑事。
二十四区への配属を希望しているがいまだ叶わず。
秋葉警部補の幼馴染、腐れ縁。